ゆく年☆くる年

12月の最終週、世の中は一年の締めくくりをむかえ何処
も慌しい。冷たい風が木々を揺らし、一層寒く感じる。
聖域もこの季節は、ご多聞にもれず寒さに震えていた。
今回、此処では珍しい日本の宴会が催されている。
アテナとして転生した城戸沙織の計らいにより、初めて
の忘年会が開かれているのだった。

宴は盛り上がっていた。熱気に包まれ酒は進み、料理は
テーブルに載り切れないほど並ぶ。それは黄金聖闘士の
際限無い食欲を満たしていた。しっかりと飲み食いする
男達の胃袋を考えると、気が遠くなってしまうだろう。
御大の30周年記念のおかげで、大いに忙しかったことを
労っての宴会も兼ねる状況は賑やかだった。

「お疲れさんっ。記念企画が全て無事終了したのは、
ひとえにみんなの頑張りによるものだ。今回の宴会は、
スポンサー主催協力である。慰労を兼ねてと、これから
も宜しくお願いをしたいとのメッセージ付きであること
をお伝えする」マイクを握って、ひときわ大きな声で
司会を担当するアルデバラン。雄叫びに似た返答に広間
が思わず揺れていた。

「おい、そこの酒取ってくれ」デスマスクはアイオリア
に向かって空になった瓶を振り、彼の後ろにあるケース
の中のビールを要求した。
「O・K~♪ ホラ!ッと」一本デスマスクに向かって
放り投げる。酔いながらも取りそこなうこと無く、見事
にキャッチ。座った椅子の後ろには、かなりの数の酒瓶
が積まれ、いまにも埋もれそうになっていた。

それぞれが楽しんでいる酒盛り状況下は続く。その中、
一人シンミリしているのはカミュ。
手酌でウオッカをあおりながら、部屋の天井を仰ぎ見て
溜め息をついている。「なんだよぉ、景気悪そうな感じ
でよ。もっとパァっといけよ〜ぉ♪パァっとさぁ♡」
陽気に手をヒラヒラさせながら、ミロは横に座り、背中
をバンと叩く。いきなりの振動で、むせながらもグラス
を落とさず彼の方を振り向く。「…私なりに頑張ってみ
たが、あれで良かったのだろうか…」「お前の引っ掛か
ってるんとこは、どれのことだぁ⁈」話を聞く体制の
ミロはカミュを促した。「…黄金魂の設定、アスガルド
に繋がる曰くを付けられたが、私自身あれは受け入れら
ているのか、よくわからないんだ。思ってもみなかった
からなぁ。降ってわいたような感じで…」
とつとつと話すカミュに大きく頷き、がっしりと肩を
掴みそして抱きしめた。「何を言ってるんだよぉ♪
お前よく頑張ってたぜぇ~。いい芝居出来てたジャン♡
意外性っていうことで、ファンもきっと喜んだろうしさ
あ、もう大丈夫だから気にすんなよぉ。」ミロは頭を
グリグリと擦り付け、カミュを励ましもう一度、背中を
バンと叩いた。

少し離れた席でシャカは、酒宴の雰囲気を味わってい
た。彼自身、進んで飲むことはないのでそれなりに楽し
んでいるようだった。「いかがですか?久しぶりに皆が
揃った状況は」声を掛けてムウは、隣りに座った。
「君はどうなのかね。なかなか会う機会がない連中に対
しての親しさというのは?」目を閉じたままシャカは手
にした小皿の料理を口にする。「…そうですね、可も
無く不可も無くというところでしょうか。まあ必要な
関わりさえ出来れば、私自身は充分なことだと思います
けれど」持参した瓶から白い酒を小さな杯に注ぎながら
ムウは答える。この二人の周りは、喧騒がこの空間だけ
届いていないようだった。

「いい加減その後の酒瓶、何処かへ持って行って貰い
たいけど?」自分の座っている椅子の近くまで雪崩て
きそうな量の多さにゲンナリして、アフロディーテは
一声掛ける。食事とワインを楽しんでいるのに、興醒
めなお隣に申してみた。「悪りぃ~♪な。まあ、ちょ
いとお許しを~~♪さ」上機嫌なデスマスクには、
何を言っても通じそうもない。「どんだけ嬉しかった
か分かんないけどね、迷惑は掛けないでくれる?」
「あぁ、そうさ。俺はモウレツにごきげんなんだぜ~
飲めよぉ、シュラぁ~♪」いきなり左隣りに座ってい
るシュラに向かって瓶を差し出す。遠慮無く泡が溢れ
そうな勢いに、慌ててシュラは自分のコップを持って
受けた。「映画も、黄金魂も、俺って、ラッキー、
ハッピーぃ~♪美味しい役回りだったよぉ~ん」ここ
まで浮かれたデスマスクをみたことはないので、二人
とも顔を見合わせ呆れてしまった。「シュラ、君は何
か引っかかることはなかったの?」アフロディーテは
出来上がっている蟹のことは見捨てて、尋ねる。
「…俺は、さして大きなこだわりがあった訳ではない
から、与えられた役に対して言うことはなかったな。
ちゃんと俺らしさが出せたと思うし…」そう言うと、
コップの中のビールを飲んで一息ついた。そんな
シュラの様子に少し苦笑しつつも、アフロディーテ
は自分の引っかかりに対して納得していなかった。
「映画は、もうちょっと何とかして欲しかったよ!
だって折角出てるんだもの。瞬殺ってナイよねっ!
黄金魂は重要なキーパーソンだったから、満足は
してるけどさ」そういきりたちながらも、訴えを聞
いて貰えたことで気をよくしてアフロディーテは、
ブルスケッタを口に運んだ。

熱気の中で、ひたすら食欲旺盛に食べまくる男あり。
目の前の美味しそうな料理と、並々に注がれた酒を
交互に口へと運ぶ。その様子は、見ていて清々しく
さえあった。「お主、ご苦労さんだったのう。今回
は主役として頑張ってくれて、良い出来になって」
料理を口の中に頬張ったままのアイオリアに、童虎
は笑いながら声を掛けた。必死で飲み込むと、少し
むせながらもアイオリアは頷ずき首を振って答える。
「お褒めの言葉、有り難い限りです。黄金魂、話が
来た時は、よもや主役と思ってませんでしたので、
驚きましたが」喋りながら何度も頭をかいた。その
素直な感想と様子を見て、嬉しさが込み上げる。
「ワシもな、出番をもらえて久しぶりに張り切れた。
楽しかったんで、また呼んでもらいたいなあ」思い
出し笑いを浮かべて童虎も手にした盃の酒を煽る。

浮かれ気味に鼻歌がつい出て、にやける顔はどうし
ようもない。いつもより酒の回りが早いと感じるが、
それを素直に受け入れていた。「随分といい出来上がり
じゃないか。俺にも一杯お相伴させてもらえるか?」
グラスを手に、サガの横へアイオロスは座る。「おう、
ま、ま、一杯~♪」自分の前に置いた樽から、アイオロ
スのグラスへ並々と注ぐとサガは、ツマミも勧めた。
「今回の出演は、本気で嬉しかったよ。それも満を持し
て大一番の見せ場だったし~。役回りの有り難さ、名誉
挽回という感じで」気持ち良く酔っているせいか、サガ
の饒舌さは止まら無かった。「俺は何よりもアイオリア
が主役に抜擢されて、もうそれだけで言うことはない。
嬉しかったんで、スナップ撮り捲ったよ♪」思わず手に
持った携帯の中の写真をサガに見せ、アイオロスは、
終始ご機嫌だった。

外の寒さも此処には届かず、いずれもテンションが上が
っていく状況に誰も止める者も無く宴会は続いていた。
黄金聖闘士に幸多かれ・・・・

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